share

19歳で父親になる選択を正解にしていく。あるミレニアル世代が迷いなく結婚した理由

「かっこいい父親」になりたいのに、今の自分はスネかじり。理想と現実のギャップに苦悩

森本

私自身の経験になりますが、子どもを身ごもったときは生まれるのがすごく楽しみでした。けれど、いざ生まれたら生活が激変してしまい、「楽しさ」よりも「大変さ」を感じる場面が少なからずありました。
「選んだ道を正解にしていく」とは仰いましたが、若くして1児の父親になり、苦労したことも多かったのではないでしょうか。

西村

確かに、ご指摘のとおりです。出産に立ち会ったときには本当にうれしくて、「この子を絶対に幸せにしよう」と心から誓いました。

その気持ちに変わりはなかったものの、子どもが生まれてすぐのころは、奥さんの実家で“マスオさん生活”を送っていました。大学に通いながら週5~6日はアルバイトして1カ月20万円くらいは稼ぎ、毎月ある程度の金額を奥さんの実家に渡していました。それに加えて、自分の父親が家庭を顧みなかったことへの反発もあって、家事・育児も積極的に担当したかった。3~4足のわらじを履く生活になり、本当に大変でしたね。

森本

子どものころに思い描いていた理想の家庭像と、大学に通ってアルバイトにも励んだ現実の家庭生活。理想と現実の違いに悩みませんでしたか?

西村

子どもが生まれて1年くらいの間は、すごく悩みましたね。自分の父親が理想の父親とはかけ離れていた分、“理想の父親”をリアルに思い描けなかったんです。

その結果、「とにかく、かっこいいお父さんになろう」という思いだけが先走ってしまいました。仕事をバリバリがんばって、家族に対する思いやりの気持ちも忘れずに、家事・育児まで手を抜かない――。そんな“スーパーパパ”が目標でしたが、私の身の丈に合っていませんでしたね。

当時の私は、学生で奥さんの実家でお世話になっていたスネかじりの身。“スーパーパパ”になるという理想とはかけ離れた現実に、さいなまれていました。

そうして苦しんでいた大学2年の冬、何気なく読んでいた日経新聞の夕刊に、ファザーリング・ジャパンを設立した安藤哲也さんのインタビュー記事が載っていました。

ファザーリング・ジャパンは、「Fathering(=父親であることを楽しむ)」への理解を広めること、「よい父親」「理想の父親」ではなく「笑っている父親」を増やすことを目指して活動しています。

その考え方を知ったときに「ずっと憧れていた父親になれたのに、自分は全然楽しめていなかった。自分で勝手につくり上げた『理想の父親』像と現実とのギャップばかりを意識してしまい、ネガティブな気持ちに押しつぶされてしまっている」と痛感させられました。

自分で勝手につくり上げた『理想の父親』像と現実の自分を比べるのではなく、自分なりの父親像をつくっていこう――。ファザーリング・ジャパンの考えを知り、そう考えを変えることができたのです。

「若者の結婚離れ」の解決策に――「ファザーリング」している多様な夫婦の実例を伝えたい

森本

それがきっかけとなって、ファザーリング・ジャパンの活動に参加するようになったんですね。活動に参加する前と後とを比べて、どんなところが変わったと思いますか?

西村

一番大きく変わったのは、父親としてのスタンスです。それまでは「父親として、こう“しないといけない”」と頭で考えて行動してしまい、父親であることを楽しめていませんでした。

それがファザーリング・ジャパンの考え方を知ってからは、「父親として、こう“したい”」という純粋な気持ちで行動できるようになりました。子どもと遊んでいても、心から楽しめるようになりましたね。奥さんからも「最近、すごく明るくなったね」と喜んでもらえました。

佐藤

西村さんの話を聞いていて、経営コンサルタントとして知られる大前研一さんの主張を思い出しました。今の日本は“心理不況”に陥っていて、経済理論よりも消費者の「倹約しよう」「お金を貯めないと」という心理の方が経済に大きな影響を与えているというものです。

「若者の結婚離れ」と報じるメディアもありますが、その原因は「結婚したら、こう“しないといけない”」という心理的なところにあるのかもしれませんね。恋愛や結婚は本来、もっと純粋に楽しいもののはずなのに、こう“しないといけない”という心理が結婚意欲を減退させてしまっているとも考えられます。

西村

そうした心理的な要因は、すごく大きいと思います。私の周りを見渡してみると、上司から「結婚は人生の墓場だ」と愚痴られ、両親からも「結婚して後悔した」といったネガティブなことを言われたために、結婚に対してポジティブな気持ちになれない若者が多いように感じます。

思うに、そうした結婚に対してネガティブな発言をしているのは、私たちのひとまわり上の世代です。「男は外で仕事、女は家で家事・育児」という旧来の価値観が急に崩壊してしまい、変化に対応しきれず家庭生活の中で嫌な思いをすることが多かったのかもしれません。

ただ、私たちの世代は「男は仕事、女は家事」といった価値観に縛られる必要はありません。新しい父親の在り方、新しい家族の形を築いていけるはずです。

私はファザーリング・ジャパンの活動を通じて、旧来の「理想の父親」像とはかけ離れているけれども、自分たちなりに「Fathering(=父親であることを楽しむ)」を実現できている多くの夫婦と出会ってきました。

同年代の仲間の中には、ファザーリング・ジャパンに参加して多様な夫婦の在り方を知り、「結婚願望はまったくなかったのに、20代のうちに結婚していた」という人がたくさんいます。

そこから考えるに、「若者の結婚離れ」を食い止めるには、まずは私たちより上の世代の「男は仕事、女は家事」といった価値観に引きずられないこと。「結婚願望はまったくない」という人にも、私たちの世代だからこそ実現できた素敵な家族の形、夫婦の姿の実例を、もっと広く伝えていかなくてはならないと感じています。

森本

そうですね。西村さんのように、奥様と子どもたちへの愛情を隠さず、夫婦がお互いに尊重し合い、成長し合い、助け合う。旧来の夫婦観・家族観に縛られず、「夫婦や家族にはいろんな在り方があっていいんだ」というメッセージを発信していくことで、結婚に対して前向きな人を増やすことができるのかもしれませんね。

他の対談ページを見る