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「婚活」から「結婚2.0」へ ~ ”婚活の母”が提唱する新たな結婚観

どうすれば男性は“父親”になってくれるのか――フランス・アメリカの夫婦

どうすれば男性は“父親”になってくれるのか――フランス・アメリカの夫婦

森本

森本

外側から何らかの形で働き掛けて、「今見えている景色を変える」流れを加速することはできるのでしょうか?

白河

フランスでは1990年代半ばごろに合計特殊出生率が1.6台にまで低下しましたが、そこから回復させて2015年には1.92まで上昇しました。

フランスで効果的だった政策の1つが、2002年に男性が産休を取得することを制度化したことです。赤ちゃんが生まれるタイミングで3日間の休暇を取得できて、そこからさらに11日間、父親が育児に携わるための休暇に入ります。

フランス政府は、「子どもが生まれただけで、男性は父親になれない」と悟ったのだと思います。会社には男性の産休を拒む権利はなく、2012年には赤ちゃんの父親となったフランス人男性の7割が産休を取得しました。

赤ちゃんが生まれてすぐに、男性を半強制的に育児にかかわらせ、ワンオペ育児にしないようにする。こうしたフランス政府の工夫は、素晴らしいものです。

この成功例を踏まえると、日本の女性たちがワンオペ育児に陥るのを防ぎたいのなら、旦那さんを早い段階から育児に巻き込む必要があると思います。

ワンオペ育児で苦しんでいる女性たちに話を聞いたことがあるのですが、「なぜ結婚前や出産後、ワンオペにならないように旦那さんへ働き掛けなかったのですか?」と質問したら、みんな「子どもが生まれれば、男性は自然と父親になると思っていた」と答えていました。

森本

いや、男性は自然に父親にはなれませんよ(笑)。

佐藤

やはり、育児に関しても夫婦の話し合いが大切ですよね。私の姉はアメリカ人の夫と結婚して20年ほど経ちますが、主に家計を支えているのは姉の方。プログラマーとして働いていて、夫よりもかなり年収がいいのです。

そこで姉夫婦は2人で話し合い、旦那さんの方が労働時間を短めにして、家事・育児をより多く負担するようにしました。僕らの従来の感覚ではその話を聞くと驚いてしまいますが、「どうすれば家族がより良くなるか」と話し合って、 稼ぎ手としての役割と家事・育児の役割を上手く分担している例だと思います。

白河

アメリカは日本と比べて保育園が整備されていなくて、保育園やベビーシッターを利用しようとしたら高額の出費。それが合理的という選択になったのでしょうね。また、仕事を1度辞めても再就職しやすい社会でもあります。

大きくその2つの要因から、夫と妻の年収を比較して「どちらが稼いで、どちらが子育てするか」と話し合いやすい土壌があるのでしょう。「自分が主夫をやる」ことに納得する男性も多いように感じます。

森本

私の家庭は共働きなんですが、以前が夫と私の収入がほぼ同じくらいだったにもかかわらず、家事・育児は私が9割くらい負担していたんです。 その状態が続いて我慢できなくなって、あるとき、「家事・育児は私がほとんど担当していて、夫婦共同の銀行口座に振り込む金額が同じって、おかしくない?」と夫に言ってしまいました。

それから夫と話し合いまして、私が家事・育児を9割負担する代わりに、銀行に振り込む金額の9割は夫に負担してもらうことにしました。そうすることで、私の中で折り合いが付きましたね(笑)。

白河

共働きになると、旦那さんも奥さんも、どうしても家事・育児をする時間をつくりづらくなります。それでも家事・育児をがんばる奥さんは多いわけですが、そんな森本さんのような家庭なら、旦那さんがお金を多めに出して補填するという考え方もあるわけです。

家事・育児に費やす女性の時間を無償労働にはせずに、ちゃんと金銭的な価値を可視化してやることが大切。それをいち早くドラマの中で実践してみせたところに、「逃げ恥」のすごさがあると思います。

働き方改革こそ、一丁目一番地。働き方が変われば、日本の結婚・家族も変わる

働き方改革こそ、一丁目一番地。働き方が変われば、日本の結婚・家族も変わる
森本

白河様は近ごろ、働き方改革をめぐる取材・講演活動に力を入れておられます。

白河

御社の働き方改革

白河

ワンオペ育児の話をしましたが、働き方改革こそ、これからの結婚をより良くし、“結婚2.0”を広めていくのに必要な一丁目一番地だと考えています。

働き方改革によって「長時間働く人を高く評価する」という日本人のDNAを1度リセットする。その上で、時間ではなく成果で社員を評価するように日本企業が変わっていかないと、 先ほど森本様が話していたような男性と女性の間にある収入と家事・育児に割く時間の不平等さの問題は解決しないでしょう。

その意味で、私が取材していて最も先進的な取り組みをしていると感じたのは味の素です。2008年から労使共同で「WLB(ワークライフバランス)向上プロジェクト」を立ち上げ、2020年までに労働時間を7時間にすることを目標として、16時30分には退社するようになりました。16時半に全員が一律に退社できれば、後ろめたさを感じずに、保育園へ子どもを迎えに行けるようになります。

実際にどんな働き方が可能かというと、「子どもが熱を出したら、すぐにリモートワークの申請を出す。次の日の午前はリモートワークして、時間単位の有給を2時間使って子どもを病院へ連れて行く。午後からは会議の予定が入っていても、そのまま出社せずにリモートで会議に参加する。会議の予定を別の日程に再調整する必要もない」という話を伺いました。社員の働き方がここまで変わったなんてすごいことですよね。

その女性社員の旦那さんも味の素の社員で、旦那さんがリモートワークする日は晩ごはんを作ってくれるそうで、「誰かに作ってもらったごはんは、本当においしいですね」と(笑)。「今、子どもは2人いますが、今の働き方が以前から認められていたら、もっと若いうちに産んでいたのに」と話していたのも印象に残りました。働き方が変われば、やはり子どもも産みやすくなるのだなと。

これまでの“昭和の結婚”では、どうしても男女で自由になる時間が平等ではありませんでした。女性は家事・育児に追われることが避けられず、お金を稼ぐ機会を十分に得られなかった。どうやっても「男性は外で稼いで、女性は家の中に入って家事・育児をする」という従来の役割分担を壊せなかったのですが、働き方改革が上手く機能すれば、男女の不平等さも大きく改善される可能性を感じています。

そういった観点から考えても、これから結婚する女性は「私を養ってくれる結婚相手を探す」という考え方をやめて、一緒に家事・育児に取り組んでくれる男性を探すべきです。男性は「夫婦共同で家事・育児をすれば、最高で2億円の価値がある」と説得するのがいいかもしれない。自分から進んで赤ちゃんのおしめを変えてくれるようになるみたいですから(笑)。

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白河 桃子
白河 桃子(しらかわ とうこ)少子化ジャーナリスト・作家、相模女子大学客員教授、昭和女子大学総合教育センター客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。
慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマン・ブラザーズを経て、ジャーナリスト・作家として独立。2008年に中央大学の山田昌弘教授と共同執筆した『「婚活」時代』をきっかけとして、「婚活」はユーキャン新語・流行語大賞に2年連続でノミネート。「婚活」という概念が、社会で広く認知されるようになった。
主な著書は『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』(PHP新書)、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(毎日新聞出版)「後悔しない『産む』X『働く』」(ポプラ新書)など。
森本 千賀子
森本 千賀子(もりもと ちかこ)株式会社morich代表取締役、オールラウンダーエージェント。
獨協大学外国語学部英語学科卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、人材戦略コンサルティング、採用支援サポート全般を手がけ、2000人超の転職に携わる。設立以来の累計売上実績は社内トップ、リクルート社内表彰・主要賞の受賞回数は30回超にも及ぶ。
プライベートでは毎朝3時に起床し、自分の時間を確保しながら、現在中二と小三の2男の母として育児を楽しむ。
主な著書に『No.1営業ウーマンの「朝3時起き」でトリプルハッピーに生きる本』(幻冬舎)など。
佐藤 茂
佐藤 茂(さとう しげる)タメニー株式会社(旧株式会社パートナーエージェント)代表取締役社長。
駒澤大学経営学部在学時から広告代理店・株式会社オプトでアルバイトとして働き、卒業後に入社。大手結婚相談所へ転職し、マーケティング担当取締役として広告戦略等を担当する。その後、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズに入社。結婚情報サービス事業を手掛ける子会社として旧株式会社パートナーエージェントを立ち上げ、2008年にMEBOによって親会社から独立。2015年、東証マザーズへ上場を果たす。
現在、パートナーエージェントの会員数は約1万2000名、婚活支援サービス業界で成婚率No.1を誇る。