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「婚活」から「結婚2.0」へ ~ ”婚活の母”が提唱する新たな結婚観

これからの時代、幸せな家庭を築くのに必要な“結婚2.0”型の考え方

これからの時代、幸せな家庭を築くのに必要な“結婚2.0”型の考え方

森本 千賀子(以下、森本)

森本

恋愛に対して「自分が傷つくのは怖い」「面倒くさい」と考えている若い世代が、これから結婚して家族を築いていくことになるわけですよね。「よりよい結婚」を実現するためには、どんなことを意識するべきでしょうか?

白河 桃子(以下、白河)

白河

「逃げ恥」にみる結婚の経済学

白河

“昭和の結婚”はもう無理です。女性が結婚相手に望む年収の目安として、600万円という数字がよく挙げられますが、年収600万円以上の未婚男性は数%しかいません。

さらに、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』共著者のエコノミスト・是枝俊悟さんが分析してくれましたが、女性の平均時給は1383円。主婦として家事に使う時間は140時間もあって、専業主婦の月給は19万3620円が妥当だと算出されました。

それだけの月給を専業主婦の奥さんへ支払うには、男性には年収600万円ほどが必要になります。つまり言い換えると、年収600万円未満の男性と結婚した女性は「好きの搾取」をされている。家事に時間を割くよりも家の外に出て働いた方が稼げるので損ということです。専業主婦をやめて働くことが、生存戦略としても優れていることが明らかになったわけです。

もっと言うと、是枝さんの試算によって、ワンオペ育児を結婚相手の女性に押しつける男性に求められる年収も分かりました。年収1250万円以上は稼いでいないと、女性にとってはコストパフォーマンスが悪い結婚相手になるそうです。

現在の状況を考えますと、「年収600万円以上」という条件を満たしている既婚男性は少数派ですし、「年収1250万円以上」となるとほとんどいません。年収を上げることが難しいのなら、男性も家事・育児をシェアする時間を増やさなくてはいけません。

例えば、年収600万円くらいの男性でも、家事・育児の24.5%、週当たり16.9時間を分担しないと、専業主婦の奥さんにとってはコスパが悪くなり、「逃げ恥」で言うところの「好きの搾取」になってしまいます。 年収800万円稼いでいたとしても、家事・育児の18.0%、週当たり12.4時間は分担しないといけない計算です。結構な時間です。

共働きの夫婦が増えてきたとはいえ、日本の女性は男性の5倍の時間家事育児をしていて、これは発展途上国並みの数字。まだ8割ほどの既婚男性は家事はほとんどやっていないという調査があります。 男性が家事・育児をもっと多く受け持つことで、女性の年収も増やしていく必要があります。そうした上で、「仕事、お金、家事・育児をどちらがどう担当していくか」と夫婦の在り方を折に触れて話し合い、 共同経営者として2人で柔軟にデザインしていく“結婚2.0”型の家庭観を広めていかなくてはいけません。

結婚して間もないころはどのくらいの分担比率が最適なのか、子どもが生まれたらどうするのか、片方が失業したらどうしていくべきか――。そういった家族の問題について柔軟に話し合いながら関係性を変えていける夫婦こそ、 これからの時代、結婚することで幸せになれる夫婦だと思います。

佐藤 茂(以下、佐藤)

佐藤

仰るとおり、年収が右肩上がりに増えていく時代ではもうありません。男性も昭和の意識を捨てて、共同経営者として家庭を守っていくという意識を持っていかないといけません。そうした意識を男性に芽生えさせるには、どうするのが効果的でしょうか?

白河

男性を説得できるのは、圧倒的に数字でした。男子学生を相手に講義していて、家計の将来をシミュレーションした図を見せて「専業主婦、契約社員・パート、正社員、奥さんの働き方次第で、将来の収入はこれだけ違います」と伝えると、「おおっ」と驚きの声があがります(笑)。

森本

数字で説得されるんですね。それが一番早いと(笑)。

白河

数字を見せれば納得してくれるのですが、それでも男性の頭の中には「仕事と家事・育児を両立させる」という価値観はまだありません。しばらくは女性が説得して、仕事と家事・育児を両立するように男性を変えていく必要があると思います。

それを既に実践してくれた教え子もいます。私が学生を相手に講義するようになって7年経ちまして、私の話を聞いた後、その若者たちがどんな人生を歩んでいるかとインタビューしたことがあります。卒業して20代半ばに差し掛かったある女性に話を聞いたところ、彼女は20代半ばで結婚して、これから産休に入ると言っていました。

驚いたのは、彼女は産休で復帰し、夫が育休を取る予定だったことです。「どうして、旦那さんが仕事と家事・育児を両立してくれるようになったのか」と聞いてみたら、もともと彼女は「若いうちに子どもを産みたい。けれど年収が少ないので、年収が増えるまでは出産をあきらめよう」と考えていたそうなのですが、私の講義を聴いて「夫婦で共働きして家事・育児を分担できれば、どうにかなる」と気が付いたと話していました。

ただ、結婚前の夫は、子育てに興味があったわけではありません。そこで彼女は、旦那さんをかっこいいイクメンのグループと仲良くさせることで、「育児する男性」=「かっこいい」という意識を植え付けました。旦那さんの意識を変えた彼女のことを、すごいと思いましたね。

森本

私も母親として、「男性が育児にもっとかかわってくれればいいのに」と強く願ってきました。

それでも、「世の中の男性の意識が、少しずつ変わってきたな」とも感じていますね。長男と次男、5歳差の子どもがいるのですが、長男がまだ保育園に通っていたとき、子どもを迎えに行くと、お迎えに来るのはほとんどがママでした。ところが次男のときには景色がずいぶん変わりまして、半分くらい、パパが子どもを迎えに来ていました。

共学の中学で先生たちに話を聞いても、「最近は、生徒会長の立候補を募ると女の子だけが手を挙げる」と言っていました。「運動会の応援団長も、2年連続で女子学生になった」と教えてくれた先生もいましたね。

白河

今見えている景色を変えるというのは、非常に重要なことです。

ちょうど今、アラサー前後の女性の母親には、パートとして働いていた主婦がたくさんいます。これから10~20年が経つと、母親も正社員として共働きしていた世代が親になります。 彼・彼女たちは、仕事と家事・育児を両立させようと努力する父親・母親を見て育っていくでしょうから、“昭和の結婚”から解き放たれて、“結婚2.0”型の家庭を上手く築いていけるはずです。

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