恋愛感情はなくとも結婚できますか?いいえ、きっと無理だもの。
誰もが結婚すると思っていたカップルに突然の別れがきた。
「実はね、別れたの」
「は……はぁああ?!!??!」
渋谷のセンター街の路地裏にあるカフェでおよそ三ヶ月ぶりに会った友人Tちゃんの開口一番がそれだった。
私と同い年の彼女は24歳で、付き合っていた彼氏はたしか29歳。
歳の差は申し分無く、派手さは無いが穏やかで幸せそうなカップルライフを二人は送っていたはずだった。
周りの誰しもがそう思っていただけに、その報告はあまりにも衝撃が大きかったのだ。
目次
順調な恋愛より恋心を選んだ彼女
別れの報告をその一言で済ましたTちゃんは、特に表情を変えることなくふわふわのミルクが乗ったカプチーノを美味しそうに飲んだ。
その間、私は衝撃の反動でドリンクはおろか、チェイサーにすら口を付けられずにいた。
「冷めちゃうよ」と促され、ようやく紅茶を口に含み、その後フルーツが輝くタルトをフォークで一口分に切る。
既にチーズケーキを食べ始めている彼女は、数日前に失恋を経験した人間とは感じさせないほど、表情は朗らかだ。
ようやく冷静さを取り戻した私は、タルトを二口食べ、紅茶をグイっと飲み、彼女に問いかけていた。
「勝手な思い込みだけど、あの人と結婚すると思ってた。だって、仕事は大手企業勤めだし、喧嘩でも感情的に怒られたことなんて一度も無いんだよね?付き合って二年だっけ?というか、めちゃめちゃ順調そうだったのに何でよ」
私があまりにもガツガツと言葉を並べるものだから、Tちゃんは弾けるようにケタケタと笑った後、私の目を柔らかな瞳で真っ直ぐ見据えながら、こう言ったのだ。
「嫌いになったわけじゃないし、むしろすごく好きだったよ。結婚も彼としたかった」
「でも……もう恋じゃなくなっちゃった」
恋愛と友愛の間
Tちゃんに別れを決意させた“恋じゃなくなった”は、私たち女性にとって大きな悩みの種と成り得る厄介なもの。
事実、恋愛感情そのものはあまり長続きはしない。
それでも長年の交際関係であったり、結婚生活を続けられたりするのは、恋愛感情が家族などに抱く愛情へと変化していくからだ。
それは同時に、恋のトキメキが同じ相手だと長続きしないことも意味している。
トキメキは無いけれど、安心感や安定感はあるといった関係に満足している人は男女問わず多いし、端から見ているとそういった関係になった相手と結婚に至るのだろうとも考えられる。
でも、それはあくまでもお互いに結婚願望があって、さらにその高まりもタイミングが合わなければズレが生じていくのみ。
「恋愛らしい恋愛をしたかった」と語るTちゃん。
その顔は妙に清々しく、これから出会うであろう“恋愛相手”との未来に期待しているようにも見えた。
恋愛感情がなくとも、結婚は出来る。
でも、誰しもがそれで満足を得れるかは分からない。
少なからず、Tちゃんはそうじゃなかった。
じゃあ、私は………?